本稿では、トポロジーにおいて現れる「Galois被覆 (Galois covering)」と、微分幾何学やゲージ理論において現れる「主 $G$ 束 (principal $G$-bundle)」の関係について、これまでの議論を統合し、数学的に厳密かつself-containedな解説を行います。 一言で言えば、Galois被覆とは、構造群 $G$ が離散位相群である場合の主 $G$ 束のことです。両者は本質的に同じ幾何学的構造を指していますが、歴史的な背景や、対象とする「群」が連続であるか離散であるかによって呼び分けられています。
位相幾何学の視点と微分幾何学の視点による対応を以下の表にまとめます。
| 特徴 | Galois被覆 ($p: Y \to X$) | 主 $G$ 束 ($p: P \to X$) |
|---|---|---|
| ファイバー | 離散空間(点の集まり) | 多様体などの連続空間(例: $S^1$, $SU(2)$) |
| 作用する群 $G$ | 被覆変換群 $\mathrm{Aut}(Y/X)$ | 構造群(位相群やLie群など) |
| 群の位相 | 離散位相 | 連続な位相(多様体の構造を持つなど) |
| ファイバーへの作用 | 自由かつ推移的 (free and transitive) | 自由かつ推移的 (free and transitive) |
数学的な議論を明晰にするために、集合と写像の言葉を用いて基本概念を定義する。以下の記述はすべて「だ・である」調で統一する。
位相群 $G$ に離散位相を入れた場合、上記の主束の局所自明化の条件は、被覆空間における均等被覆の条件と完全に一致する。このことを厳密に証明する。
まず、$p: P \to X$ が主 $G$ 束であると仮定する。定義より、各 $x \in X$ は開近傍 $U \subset X$ を持ち、同相写像 $\phi: p^{-1}(U) \to U \times G$ が存在する。群 $G$ は離散位相を持つため、直積空間 $U \times G$ は位相空間として $\coprod_{g \in G} (U \times \{g\})$ と分解される。 ここで、$V_g = \phi^{-1}(U \times \{g\})$ とおくと、$V_g$ は $p^{-1}(U)$ の開集合であり、$p^{-1}(U) = \coprod_{g \in G} V_g$ となる。 射影 $\text{proj}_1 \circ \phi = p$ であるため、各 $p|_{V_g}: V_g \to U$ は同相写像である。したがって、$p: P \to X$ は被覆空間である。
次に、群 $G$ の元 $h \in G$ による右作用 $R_h: P \to P$ ; $u \mapsto u \cdot h$ を考える。局所自明化の条件より、$\phi(u \cdot h) = (p(u), g h)$ (ただし $\phi(u) = (p(u), g)$) であり、これはファイバーを保つ同相写像である。よって、$R_h \in \mathrm{Aut}(P/X)$ である。 各ファイバー $p^{-1}(x)$ において、点 $\phi^{-1}(x, e)$ (ここで $e$ は $G$ の単位元) から任意の点 $\phi^{-1}(x, g)$ へは、元 $g$ による右作用によって移るため、作用は推移的である。よって $p: P \to X$ はGalois被覆である。
逆に、$p: P \to X$ がGalois被覆であり、被覆変換群を $G = \mathrm{Aut}(P/X)$ と仮定する。Galois被覆の定義より、任意のファイバー上で $G$ は自由かつ推移的に作用する。 $X$ の任意の点 $x$ の均等被覆される開近傍を $U$ とし、$p^{-1}(U) = \coprod_{i \in I} V_i$ とする。ある $V_{i_0}$ を選び、$V_{i_0}$ から $U$ への同相写像の逆写像を $s: U \to V_{i_0}$ とする。 $U \times G \to p^{-1}(U)$ を $(y, g) \mapsto g \cdot s(y)$ と定めると、これが同相写像となる。これを逆にして局所自明化を得る。したがって、$P \to X$ は離散群 $G$ を構造群とする主 $G$ 束である。
主 $G$ 束の言葉を用いると、被覆空間の理論におけるGalois対応 (Galois correspondence) は、「構造群 $G$ の部分群 $H$」と「中間的なファイバー束」の間の美しい対応関係として記述される。 $G$ を位相群(ここでは離散群と想定してもよいが、一般の位相群でも成り立つ)、$p: P \to X$ を主 $G$ 束とする。
商空間への自然な射影により、以下の射影の列が得られる。 $$ P \xrightarrow{\ q\ } P/H \xrightarrow{\ r\ } X $$ ここで $p = r \circ q$ である。この分解について、以下のGalois対応の基本定理が成り立つ。
主張1の証明: $P$ への $H$ の作用は、$G$ の作用の制限であるため自由である。商写像 $q: P \to P/H$ に対して局所自明化を構成する。 $x \in X$ の近傍 $U \subset X$ 上で $P$ は局所自明化 $p^{-1}(U) \cong U \times G$ を持つ。 この局所自明化において、$H$ の作用は第二成分への右からの積として作用する。すなわち、$(y, g) \cdot h = (y, gh)$ である。 したがって、部分群 $H$ による商をとると、$q(p^{-1}(U)) \cong U \times (G/H)$ となる。 $P \to P/H$ の局所自明化は、$U \times G \to U \times (G/H)$ によって与えられる。位相群 $G$ において、部分群 $H$ による射影 $G \to G/H$ は主 $H$ 束であることが知られているため、各点ごとに局所断面をとり、$q: P \to P/H$ が主 $H$ 束であることが従う。
主張2および3の証明: 上記で見た通り、$r^{-1}(U) = q(p^{-1}(U)) \cong U \times (G/H)$ であるため、$r: P/H \to X$ はファイバーを $G/H$ とするファイバー束である。 次に、$H$ が正規部分群 ($H \triangleleft G$) であると仮定する。このとき、$G/H$ は剰余群の構造を持つ。 $P/H$ に対する群 $G/H$ の右作用を次のように定義する。 $[u] \in P/H$ (ただし $u \in P$ )および $[g] \in G/H$ に対して、 $$ [u] \cdot [g] = [u \cdot g] $$ と定める。この作用が well-defined であることを示す。 $u_1 \sim u_2$ すなわちある $h \in H$ について $u_2 = u_1 \cdot h$ とし、$g_1 \sim g_2$ すなわちある $h' \in H$ について $g_2 = h' g_1$ ($H$ が正規部分群であるため左剰余類と右剰余類は一致する。より正確には $g_2 = g_1 h''$ となる $h'' \in H$ が存在する)とする。 $$ u_2 \cdot g_2 = (u_1 \cdot h) \cdot (g_1 h'') = u_1 \cdot (h g_1 h'') $$ $H$ が正規部分群であるため、$h g_1 = g_1 \tilde{h}$ となる $\tilde{h} \in H$ が存在する。 $$ u_2 \cdot g_2 = u_1 \cdot (g_1 \tilde{h} h'') = (u_1 \cdot g_1) \cdot (\tilde{h} h'') $$ $\tilde{h} h'' \in H$ であるため、$[u_2 \cdot g_2] = [u_1 \cdot g_1]$ となり、作用は well-defined である。 ファイバー上での自由かつ推移的な作用も明らかであり、局所自明化も $r^{-1}(U) \cong U \times (G/H)$ により与えられるため、$r: P/H \to X$ は主 $G/H$ 束となる。